『万葉集』は日本最古の和歌集。
4516首の歌が20巻に分けて編集されており、日本全国の1200か所もの地名が詠み込まれている。
兵庫県内に約140首あるが、西国への交通路として重要だった西宮にゆかりのある9首の歌からは、武庫の入江から続く一帯の浜辺には鶴が飛来し、白砂青松の美しい風景の広がる地域であったことが偲ばれる。
・住吉の 得名津に立ちて 見渡せば 武庫の泊まりゆ 出づる船人(3-283)
訳:住吉の得名津に立って見渡すと、武庫の港から漕ぎ出す船人が見える。
・武庫の浦を 漕ぎ廻る小船 粟島を そがひに見つつ ともしき小船(3-358) 山部赤人
訳:武庫の海辺を漕ぎ廻っている小船、粟島を背後に見ながら漕いでいる、羨ましい小船よ。
・武庫川の 水脈を速みと 赤駒の あがく激ちに 濡れにけるかも(7-1141)
訳:武庫川の流れが速いので、栗毛色の馬のもがく水しぶきで、衣が濡れてしまったことだ。
・武庫の浦の 入江の渚鳥 羽ぐくもる 君を離れて 恋に死ぬべし(15-3578)
訳:武庫の海辺の入江の渚鳥のように、覆い包むように守って頂いたあなたと別れて、私は恋に死んでしまいそう…。
・朝開き 漕ぎ出で來れば 武庫の浦の 潮干の潟に 鶴が声すも(15-3595)
訳:朝早く港を漕ぎ出して来ると、武庫の海辺の干潟で鶴の鳴く声がしている。
・武庫の海の 庭良くあらし いざりする 海人の釣舟 波の上ゆ見ゆ(15-3609)
訳:武庫の海の漁場が良いらしい。 魚を捕っている海人の釣舟が波の上に見える。
・たまはやす 武庫の渡りに 天伝ふ 日の暮れ行けば 家をしそ思ふ(17-3895)
訳:武庫の渡し場で、日が暮れて行くと、家のことが偲ばれることだ。
・海人娘子 いざり焚く火の おぼほしく 角の松原 思ほゆるかも(17-3899)
訳:海人の娘たちが焚く、いさり火のように、ぼんやりと角の松原が 偲ばれることだ。
・我妹子に 猪名野は見せつ 名次山 角の松原 いつか示さむ(3・279) 高市連黒人
訳:わが妻に猪名野は見せた。名次山や角の松原はいつになったら、見せてやれるだろうか。
<万葉植物苑(西田公園)>
この植物苑は、晩年、西宮に住んだ故犬養孝博士の尽力により昭和63年に誕生。
場所:西宮市西田町6
<令和>
新しい元号『令和』は、万葉集の梅の花の歌からとられた。
初春の令月にして、気淑く風和らぐ。
梅は鏡前の粉を披く、蘭は珮後の香を薫らす。
ーー『万葉集』梅花の歌三十二首の序文よりーー