2024年5月3日、享年68才で亡くなられた武地秀実さんの最後の願いの絵本が完成した。
闘病中の母から絵本計画を託された三女未季さんを中心に編集チームができた。
今回は、そのブックデザインを担当したアートディレクターのリトウリンダさんにお話をお聞きした。
絵本「えべっさま物語」ができるまで
西宮神社にも祀られている「えびす大神」は「蛭児(ひるこ)大神」であり、蛭児神のことは神話にも出てくる。
元の神話では、蛭児神はイザナギとイザナミの間にできた最初の子どもだったが、 不具の子であったため葦船に乗せて流した・・・と書かれている。
今の世の中では表現されないような、なんとも残酷な描写になっている。
そして、西宮神社の御由緒には「えびすさまが西宮に祀られるようになった由緒は、古くは茅渟の海と云われた大阪湾の神戸・和田岬の沖より出現された御神像を西宮・鳴尾の漁師が救い上げ自宅でお祀りしていましたが、御神託により西の宮地(西宮)にお遷し祀られたのが起源と伝えられています。」と書かれている。
今回の「えべっさま物語」には、流されたヒルコの神がえべっさんになっていくお話が武地さんらしい目線で書かれている。
武地さんも、神話の表現がきっと気になっていたのではないかと思った。

平安時代後期に鎮座したとされる西宮神社に、室町時代の頃には大勢いたという「傀儡師(くぐつし)」は、えべっさん信仰を日本各地に伝える役目も追っていたようだ。
そして、その傀儡師が人を集めるために行っていたという人形繰り(えびすかき)が、今の人形浄瑠璃の源流とされているが、その本家本元の西宮では明治以降は長く戎かき(戎舞い)は忘れられていた。
戎かき(えびす舞い)を、震災で元気がなくなった西宮中央商店街のシンボルにし盛り上げようと、さまざまな資料を読みながら再現したのが武地秀実さんだった。
人形芝居戎座を立ち上げ、今では商店街だけでなく西宮の文化として語られるようになっている。
えびす舞いの復活に情熱をかた向けた武地さんの闘病生活の最後の場面で、「このストーリーで絵本にして欲しい!」と託されたのが武地さんの三女/未季さんと人形芝居戎座を引き継いだ二代目座長の松田さんだった。
武地さんともご縁があり、彼女の活動も応援していた苦楽園口のウラン堂のオーナー/リトウリンダさんも武地さんの想いに添いたいと、未季さんと松田さんとチームを組み、今回の原画を描いた梶川達美さんと共に武地さんのシナリオから16枚の絵を起こした。
こうして出来上がった絵本は、「活動しているところの写真をたくさん見せていただきました!」というが、広げると原作者の武地さんが本の中にいる!!
親子で読んでほしい!絵本「えべっさま物語」
この本は、絵本と言いながら字は小さいし、文字数も多い。
だから、ぜひ親子で一緒に読んで欲しいという。
「3枚目に当たる、蛭児神が海に流される!ってところを読んだ時、『これは描けない!!』って僕も画家の梶川さんも思ったりもしました。」とリンダさん。
「それでも、神話にあるシーンだということでしたから、神様であっても悲しく切ない別れとして描こうと思いました。」
セピア色のページにはそんな切ない親子の別れが表現されている。
「わしは『海の神』とも言われているが、親に捨てられ、イジメにもあった。しかし、このように皆の衆によって助けられた。だから、皆とともに居て、皆の苦しみや悲しみなどを背負い、福を授ける神になろうと誓ったのじゃ。」というくだりがあるが、きっと武地さんも、流された蛭児神の場面には心を痛めたのではないかと思った。
最初は、武地さんのシナリオの他に資料があまりなかったので、そこから想像して絵にするのはなかなか大変な作業だったようだ。
西宮神社の宮司・吉井良昭さんの監修の絵本「えべっさま物語」は、現在、西宮神社でも販売の準備をしている。
今後は、西宮北口駅近くにあるカフェシオサイ(PASTA e CAFE SHIOSAI)や、阪神間の書店などで取り扱っていただく予定!(1200円)
絵本「えべっさま物語」原画展開催
8月中くらいまで、原画展が苦楽園口のウラン堂で開かれている。
その後は、西宮北口のカフェ・シオサイで開催予定(詳しい日程はまだ未定)
16枚の原画が、手に取るような距離でゆっくり見れるので、色の濃淡やタッチにも触れるチャンス!!
セピア色のページのイザナギとイザナミの姿にもぜひ注目して欲しい。

ウラン堂(ギャラリー&カフェ)
場所:西宮市石刎町9-13(苦楽園口駅から徒歩3分)
営業日:金・土・日の12:00〜18:00
電話:0798-56-8690
メール:books★uran-dou.com
アクセス等はこちらから➡︎
PASTA e CAFE SHIOSAI(パスタ エ カフェ シオサイ)
場所:西宮市南昭和町10-19(阪急西宮北口駅から徒歩5分)
電話:079-864-8552
営業時間:10:00~21:00
定休日:月曜・火曜
ウラン堂
2012年、苦楽園口にギャラリーカフェ「ウラン堂」ができた。
オーナーは、版画家でありデザイナーとしても数多くの企業ブランディングや商業施設などのアートディレクションをされてきたリトウリンダさん。

「仕事ですから、これまで国内でも有数な大きな商業施設などのアートディレクションも手がけてきましたが、心のどこかに『昔から夫婦でやっていた小さな豆腐屋さんが、その地域からなくなっていいのか?』っていう気持ちがありました。」とリンダさん。

そんなリンダさんの出発点は、西宮の小さなガレージの版画工房だった。
その後は版画家としてだけではなく、ロゴやPR、パッケージ、ブランディングなど、音楽も含めたアートデザインの世界で活躍されてきた。
苦楽園口のウラン堂は、現在経営している大阪のデザイン会社/(有)リビドウとは別に、地域をデザインする拠点としての活動を目指している。


アーティストTシャツが並ぶ空間は、時にはライブハウスにもなる。
ウラン堂➡︎からの発信も目が離せない!!