震災後にできた新しい街・西宮浜はたくさんのオブジェがあちこちにある街。
そんなマリナパークシティに「本のモニュメント」がある。
それも一つや二つではない。ページに詩が刻まれた、その本のモニュメントをさがして散策してみた。
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ここ、西宮浜のマリナパークシティは 震災復興のため急遽住宅地となり、兵庫県・西宮市を初めとした官民5者が共同で街づくりをしたところ。
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電線が地下埋設され、4列の並木を基本にして一体的な街並みを作るという方針の下に街づくりがされたようだ。
そんな街のあちこちに様々なモニュメントが出迎えてくれるし、新西宮ヨットハーバーにの前には堀江謙一さんのマーメイド号があり、近くには西宮市貝類館もある。
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電線のないスッキリした街並みの中、一番目を引くのはメインストリートの元永定正さんのカラフルな作品。
『海・あめかぜてんき』『空・あめかぜてんき』と名付けられた作品は子ども達に大人気!!
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このマリナパークシティの開発にくかか関り、先述の本のモニュメントを作られたのも福嶋敬恭(のりやす)さん。
本のモニュメントの他に、『創造の門』や『宇・宙の詩』という大きな作品もある。
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本のモニュメントの石の台座にあるシンボルは…何
今回 ご紹介する本のモニュメントは60センチ角ほどの緑の御影石(?)の上に見開きの本が置いてあり詩が書かれている。その台座の正面には「わたしは泉」とあり、小さなマークが付いている。マークは月桂樹を咥える鳥のようにも、尾は魚のようにも見える。
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最初の1・2ページ目は「丘のある街」の6号館の南側真ん中付近の道路沿い。本のモニュメントの台座にある小さなプレートが、次のモニュメントの位置を教えてくれる仕掛けになっている。その目印のプレートどおりに、丘のまちの間を西に向かって歩く。2つ目は一番西の道路沿い。1つ目(1・2ページ)と2つ目(3・4ページ)の詩の題は「泉」
丘から桜へ…そして杜へ続く
マリナパークシティは丘のある街・桜のまち・杜のまち・海のまち・花のまち・港のまちという名前が付いている。
丘のまちの西側のさるすべりの街路樹の通りを挟んで、桜のまちの東に見つけた3つ目(5・6ページ)は「種子はわたし」という題に変わっていた。
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モニュメントの本の厚みが微妙に変えてあり、段々読み進んできたことが感じられる。なんと面白い!!
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足もとの歩道に埋め込まれたプレートを探しながら歩く。「何してるん??」という住民の方の視線を感じながら花の街の東から西へとプレートに導かれ、桜の木のトンネルの歩道の出口に4つ目(7・8ページ)。
さあ、5つ目以降のモニュメントはどこに??
足もとの印を見つけながら歩くが、杜のまちで見つけられなくて迷子(笑)
ちょうど立ち話をされていた方々に聞いてみた。本のモニュメントがあるのはご存知だったけれど、やはりいくつあるのかはご存じないらしい。「へぇ、そうなんですか??そんなプレートが導いているんですか??」「そんなのが埋め込まれてるってことも知らなかったわ。」
やっと探し当てたのは杜の街の殆ど真ん中。
<注>最近は このモニュメントも注目されてないようで、今回、確認に行ったら何と植え込みの中にすっぽり埋まっていました。探されるときはご注意!!
「杜のまち」にあった5つ目(9・10ページ)の題は「いのちのもり」
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辿っていくとちゃんと次に着くのもいいし(ちょっと迷子になったけど・・・)、詩の内容もそれぞれの街の名前とちゃんとシンクロしている。
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<注>こんな状態で 植え込みに隠れているかも知れませんので、ご注意を!!
こうなったら海の町から県営住宅・市営に続くのだろう…という仮説の元に、杜のまちから海のまちへと歩く。ところが、ここまでわたしたちを導いてくれていたプレートが見当たらない。またまた四方へ大捜索。
やっと見つかったプレートを辿ると、なんとそのまま西側の海へ。おまけによく観察すれば、プレートの埋め込まれた方向も違う。
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あっちへこっちへ…さがしまわって、ようやく見つけた海のまちの本は6つ目(11・12ページ)で題は「貝のささやき」
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どうやらこの辺りからプレートがあまり頼りにならないということが分かり、後はこれまでの設置場所から検討をつけて県営住宅へ。
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こうして7つ目(13・14ページ)は「わたしはここ」
そして、8つ目(15・16ページ)は市営住宅の一番東の端。最後の詩も「わたしはここ」
福嶋敬恭さんの本のモニュメントをたどりながらのマリナパークシティの探検も こうして終わった。
新西宮観光100選の春の写真で1位にも選ばれたマリナパークシティの桜並木は、西宮の隠れたお花見の名所。
地図上で見るとよく分かるが、夙川をまっすぐ南に伸ばしたライン上になるこの通りは、西宮浜開発時には、はるか向こうに甲山が見えるようにと設計されたという。
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夙川の桜並木がつながっているというイメージで桜が植えられ、とても美しい桜並木の景色になっている。
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まるで子供のように、ワイワイと探し歩いた小一時間。今では管理事務所でもまったく把握していなく、住民の方に聞いても誰も知らなかった本のモニュメント。
きっと、震災復興で官民5社が携わった街づくり。
そんな時に誰かが一体感を持たせるために提案したのだろう。ただ、すでに出来上がっていた街には、プレートまでは埋め込めなかったのかもしれないなと後になって思った。
季節のいい時に自転車を走らせ御前橋を渡り、新ヨットハーバーで青い海・緑の六甲山を眺めながら、高層住宅の間で本のモニュメントを探してみてください。西宮はきれいな街。きっと素敵なエコの休日が待っている。
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(御前橋・通称跳ね橋は土・日・祝には一日4回開閉される。10時、12時、15時、17時。夏場は18時半の5回。一回の開閉に20分かかる。)
西宮市内で見れるアートを集めた『街なかアート』のサイトはこちらから➡
【取材後日譚】
取材が終わった後、この本のモニュメントの事で、もう少し詳しいことが分からないかと尋ねて回った結果、現在マリナパークシティに管理事務所を置くGMSの担当者を紹介していただいた。お電話で仔細を話したが「何しろかなり前の事なので、開発当時の人間はもうバラバラになっていますから分かるかどうか…??少しお時間ください。ちょっと、探してみましょう。」
親切にそう答えていただいてから2週間。もうすっかりあきらめていた時に一本の電話が鳴った。「セキスイハウスのTです。マリナパークシティの本のモニュメントの件で…」と。
「もうすっかり忘れていたことを思い出させていただいてうれしかった…」と言っていただきながら記憶を頼りに話してくださった。
マリナパークシティは震災復興で街づくりした所。「アート」という切り口で街づくりをしようということで、たくさんのモニュメントが置かれた。
本のモニュメントを街のあちこちに置いて、それを繋いで行く。その本には、街の名前をモチーフにした詩を書こう…これらは嶋嶋敬恭さんの提案だったようだ。「街を繋ぐ」ということで、足元にプレートを埋め込むという仕掛けも含めて。一冊の本を読み進んでいく感じが出るようにと、本の厚みも微妙に変えた。プレートの模様は、鳥のようにも海の生き物のようにも見えるが、これは嶋嶋さんの作られた抽象のデザイン。
「もう、忘れかけていたことを、こんな記事にしていただいてうれしいです。あの当時の開発チームもすっかりバラバラになりましたが、今度出会う機会がありましたら話題にします。」と弾んだTさんの声に、開発者の意気込みを感じたような気がした。