兵庫県西宮市にある、日本三大厄神の一つ「門戸厄神(もんどやくじん)東光寺」。愛称「厄神さん」年間約100万人もの参拝者が訪れるこの場所は、古くから多くの人の心のよりどころとなってきました。

今回はご住職にお話を伺い、厄神さんのこと、知っているようで知らない「厄」の正体や、現代に寄り添うお寺の在り方について綴ります。
なぜここが厄神さんの特別な場所なのか?
門戸厄神東光寺は、日本三大厄神の一つとして数えられ、関西では「厄除けといえば厄神さん」と親しまれる実質的な聖地のような存在です。なぜこれほどまでに厄除け専門の場所として尊ばれているのか。ご住職は、歴史の断片からこんな「推測のお話」を語ってくださいました。

昔は神社とお寺が一緒でしたが、神仏分離や廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で分かれた歴史があります。この場所は、石清水八幡宮とも深いつながりがありました。何もないところにこれほどのお寺は建ちません。たぶん、厄神さんには元々、人々の祈りを受け止める大切なお寺があったのでしょう。

また、「門戸」という地名にも意味があるそうです。
門戸は『門前』という意味。ここは甲山の真東に位置し、かつて焼き討ちにあった神呪町(かんのうちょう)の歴史など、地名だけが残る物語もあります。あくまで推測ですが、それだけ古くから守られてきた特別な場所なのだと感じます。
微笑みながら語るご住職。しかしその言葉からは、単なる観光地ではない、長い年月をかけて積み重ねられた祈りへの深い敬意が伝わってきます。

厄とは災いではなく人生の節目
そんな歴史ある場所で、改めて「厄」について伺いました。「厄年」と聞くと、何か悪いことが起きる怖い時期…というイメージを持たれがちですが、ご住職はこう語ります。
厄とは、人生の節目(ふしめ)のこと。自分自身を振り返る大切な時期なのです。
- 女性の19歳・33歳(大人への階段、育児による体調の変化)
- 男性の42歳(仕事で責任が重くなる時期)
- 61歳(還暦)(生まれた干支に戻る、第二の人生のスタート)
現代ではライフスタイルが多様化していますが、これらはあくまで目安。「最近、忙しくて自分を後回しにしていたな」と気づき、一度立ち止まって自分の心と体を見つめ直す。それが厄年の本当の意味なのです。
前厄、本厄、後厄、とあるが、可能なら全て厄除けをしておくと安心ということでした。
ただ、数え年と満年齢は数え方が異なるため、今年が本厄だと思って年明けに厄払いをしに来たら、後厄だった。ということもあるようです。厄年早見表で自分の厄年をチェックしておくと良いでしょう。
厄除けはいつ受けるのが正解?
門戸厄神東光寺で最も大きな行事が、毎年1月18日・19日に行われる「厄神大祭」です。この2日間だけで数十万人が訪れ、境内は熱気に包まれます。

「大祭の時に受けたほうが、より効果があるのでは?」と気になる方も多いはず。ご住職に伺うと、意外な答えが返ってきました。
実は、門戸厄神では毎月19日が「厄神さんの日(縁日)」とされています。1月の大祭が18日・19日の2日間にわたって行われるのは、ちょうど西宮神社の「十日戎」のようなイメージです。
18日は、いわば『宵(よい)厄神』。翌日の本番に向けた受付のような、準備の日という意味合いもあります。そして19日が『本厄神』。この2日間を中心に、新しい一年の厄除けを願う人々で賑わうのです。
ただ、厄神大祭の時に来たからといって、ご利益が変わるわけではありません。厄除けは、いつでも、あなたが『受けよう』と思い立った時がいいのです。

それでも大祭や節分までに参拝する人が多いのは、日本古来の「数え年」の考え方があるから。立春(節分)を一年の始まりと考え、新しい年神様を迎える前に身を清めたいという願いの表れです。
混雑する大祭で活気をもらうのも、静かな日にゆっくり自分と向き合うのも、どちらも素晴らしい参拝の形です。
厄除けを受ける心構えと安心感
「祈祷を受ければ、あとは何もしなくていい」というわけではありません。ご住職が大切にされているのは、「自分自身の努力+仏様の見守り」というバランスです。
- 安心感を得る(「見守られている」という安心感を持って帰ること)
- 日々の生活を整える (祈祷に任せきりにせず、自分でも体調や行動に気をつける)
- プラスアルファのお守り(お守りは頑張るあなたの背中をそっと押してくれるものです)
健康な人ほど過信しがちですが、少しの不調がある人の方が自分を労われるもの。厄除けを、そんな「意識の切り替え」の機会にしてみませんか?

厄年だから…と諦めなくていい
「厄年に家を買ったり、転職したりするのは良くない?」という悩みも多いですが、ご住職の答えは明快です。
「そのために、厄除けというものがあるのです」
新築厄除けや良縁祈願など、人生の門出を祝う祈祷も準備されています。特に新しい命を授かった場合、「厄年だから」と不安になる必要はありません。授かった命を大切にするために、仏様のお力を借りれば良いのです。
豆知識
贈り物には「七色のもの」を 厄年の方への贈り物には、古くから「七色のもの」が良いとされています。お守りや腕念珠、お財布など、大切な方へ寄り添う気持ちを形にしてみてはいかがでしょうか。

時代に寄り添う「最先端の仏教」
厄神さんは、伝統を大切にしながらも、現代の事情に合わせた柔軟な取り組みを行っています。
オンライン祈祷
遠方で足を運べない方のために、『オンライン祈祷』もコロナ禍からスタート。お札を送るだけでなく、祈祷の様子を動画で視聴できる仕組みも。「画面越しに手を合わせる」という新しい参拝の形をされています。
プライバシーへの配慮について
以前は祈祷の際に住所を最後まで読み上げていましたが、現在はセキュリティを考慮し、市町村名までにするなどの配慮がなされています。
「仏教は最先端のものを取り入れてもいい場所」というご住職の言葉に、お寺の懐の深さを感じました。
どこが名所かわからないほど見どころ満載の境内
ご住職が「名所を作りすぎて」と仰るほど、境内にはお参り以外にも見どころが溢れています。ご自身のご利益に合わせて、ぜひ気軽に探検してみてください。
数点ピックアップしていますが、他にも奥の院や不動明王など本当に色々あります。
厄神龍王(厄神明王)


龍を見て門をくぐる「登竜門」としての意味も持つ、迫力ある巨大な龍の壁画が見守る。龍は「立身出世」の象徴でもあります。絵の中には龍だけでなく、獅子や象なども描かれていますが、実は「何匹いるかは作者も不明」というミステリアスな一面も。宝探しのような気分で、ゆっくり眺めてみてください。
男坂と女坂で一段ずつ厄を落として進む


正門の下にあるのが「男坂」、中楼門の下にあるのが「女坂」です。それぞれ、男性・女性の厄年の数と同じ段数になっています。 一段一段踏みしめて登ることで、自分の中の「厄」を置いていく…そんなイメージで歩いてみてください。登り切ったときには、心がふっと軽くなっているはずです。
延命塊(えんめいこん)

800年の生命力に直接触れる 高野山から移された、樹齢800年を超える杉の霊木(根の部分)です。古くから「延命や病気平癒のご利益がある」と信じられてきました。 この霊木には、直接触れることができます。 塊に触れ、その手で自分の体の気になる部分をさすることで、仏様の魂と木の生命力を分けていただく。そんな特別な体験ができる貴重な場所です。
人形供養・感謝を込めてお別れを

大切にしてきたお人形から、ぬいぐるみまで受付しています。
3月から受付が始まり、11月に総供養が行われます。長年連れ添った思い出の品を、感謝と共に天へ返す。そんなお寺ならではの温かい文化にも触れることができます。
弘法大師と「四国八十八ヶ所巡り」

境内でミニお遍路体験 真言宗の開祖・弘法大師(空海)が祀られているエリアには、四国八十八ヶ所の各霊場の砂が敷かれた「ミニ遍路」があります。
「いつかはお遍路に行ってみたいけれど、遠くて難しい」という方も、ここを歩けば四国の霊場を巡るのと同じような功徳を授かれると言われています。

ご住職からのアドバイス
まずは難しく考えず、境内をぐるっと一周回ってみてください。その中に、あなたにぴったりの場所がきっと見つかります。
参拝の後は食べる厄除けグルメを
お参りの後は、門前のお店でパワーチャージするのも楽しみの一つです。
門戸Saziki

厄除けの「七色」にちなんだ、7つの穀物を使ったパスタが人気。
門戸桟敷PanRyo

境内のどんぐりを使った珍しいパンに出会えるかも。
あうんサブレ

まさに「厄を食いつぶす(食べる厄除け)」自分へのお土産にもぴったりです。
おわりに
昔に比べると家族葬が増えたり、近親者以外の身近な人同士が関わることも減ってきて、「人間関係が希薄になってきているように感じる」と少し悲しそうに、でも温かく語ってくださったご住職。 厄神さんは、ただ厄を払う場所ではなく、「一人じゃないよ、見守っているよ」という安心感をくれる場所でした。
最近、少しお疲れ気味の方も。人生の大きな転機を迎えている方も。 ぜひ一度、門戸の地を訪れて、心をふっと軽くしてみませんか?

門戸厄神 東光寺
〒662-0828 兵庫県西宮市門戸西町2番26号
URL:https://mondoyakujin.or.jp/
アクセス: 阪急今津線「門戸厄神駅」下車 徒歩約15分
備考: 毎月19日は「厄神さんの日」として親しまれています。























