西宮流が地域の情報ウェブサイトとしてスタートして18年。
そのスタートの初期の頃に、和ろうそくを製造販売している松本商店の松本恭和社長にお話を伺ったことがあった。
それから、20年近い時間が流れ、最近は、2人の娘さんがお仕事に携わっておられると知り、改めて若いお二人を中心にお話を聞いてみた。
~松本商店の『和ろうそく』作り~
兵庫県の伝統工芸でもある和ろうそくは、江戸時代にまで遡る。当初、姫路藩の藩業であった和ろうそくの製造者として指定を受けた松本商店は、明治10年(1877年)ごろに姫路城下の製造業者から分家し、その後、大阪の福島で製造を始め、戦後は西宮に居を構えた。
以来、松本商店は手作りの『清浄生掛け(しょうじょうきがけ)』も含めて、今では全国で20軒程しかない和ろうそくの長い伝統を守って来た。
今、私たちがよく目にするローソクは、大量生産ができるパラフィンロウを原料とする洋ローソクが多い。
それに対して、和ろうそくは植物由来のロウを原料としてつくられている日本の伝統工芸品で大量生産が難しい。
今では国内での和ろうそく需要は減少して来ており、作っている所も減って来ている。
そんな中でも、松本商店は完全手作りの『清浄生掛け』を継承している貴重なお店。全国の和ろうそく屋の20軒程の内、この手作りの技術を守っているのは更に少ない。
~清浄生掛け(しょうじょうきがけ)~
この手作りのろうそくは、ハゼの実100%の粘りのある木蝋でないと作れない。
和紙にイグサの髄を巻きつけた燈芯に、温めたロウを巻きつけていく。
溶かしたロウを塗りつけては乾かすと言う工程を、何度も何度も繰り返して規定の太さまで作り上げていく。
静かな作業だが、その日の環境によっても左右され、気を抜くことはできない根気のいる仕事だ。
この工程を三女の真由華さんが受け継いでいる。
「芯締めの時は、今でも緊張しますね。」と言う恭和社長。
そんな『芯締め(初めて燈芯をロウに潜らせる作業)』の工程も、真由華さんによると「地味で単純で、ちょっと面倒臭いですけど・・・」という表現に変わる。
物作りをする人の個性で感覚も変わり、その手から唯一無二のものが出来ていく。
和ろうそくの場合、それが炎の揺らぎも変えていく。
~絵ろうそくの世界~
この一本一本手作りのものだけでなく、型抜きの和ろうそくもある。
松本商店の一つの柱でもある「絵ろうそく」は、型抜きで作られたものに絵付けしていく。
こちらは、型から離れ易くなるように、木蝋に他の植物由来の蝋を混ぜて離型率の高いロウで作る。
型と言っても、昔から使われて来た木型は今ではもう作ることができなくなり、金属型に変わって来ている。
そんな型の種類や季節によっても、そのロウの配合などは微妙に変わると言う。
花の絵を描いたろうそくは、お供えの花の代わりにも使える。
植物由来のロウで作られている和ろうそくだから、暑い夏のお花の代わりにもなる。
長女の紗矢香さんは、この絵付けの工程を守る。
「手伝って欲しい」という社長の言葉から、北野工房の絵付け師として仕事を始めることになっていった。
「小さい頃から絵を描くことは好きでしたし、絵の世界ならいろんなことが出来るんです。工房を訪れる観光客の方々とお話もしながら、様々な新しいデザインもやってきました。」
元々、和ろうそくは仏具だった。
時代と共に仏壇のある家も少なくなってきている。
仏前に備える意味で花の絵が多かった絵ろうそくも、観光客のお土産要素も多くなり様々の風景も描くようになっている。
「修学旅行生などが来られると、必ずと言っていいほど手に取ってろうそくを鼻に持って行かれるんです。最初は分からなかったのですが、今の若い人にはろうそく=アロマなんですね。」
灯りと香りがワンセットになって来ている若い人が多い現実を改めて知った。
しかし和ろうそくに香りをつけるのはとても難しいようだ。
ただ、消費者の一つのニーズとしてある「香り」を取り入れようと、アロマストーンと和ろうそくを組み合わせた新しい商品も誕生し始めている。
~和ろうそくの特徴~
※植物性のロウが原料の和ろうそくと有機化合物のパラフィンが原料の洋ろうそく。
※和ろうそくは、油煙が少なく仏壇や部屋を汚しにくい。
※和ろうそくは、風がなくても炎が揺らぎ、形や明るさなど様々な表情を見せてくれ、見る人に優しさや力強さ、喜びなど見る人の気持ちに寄り添ってくれる。
※和ろうそくは、風に強いので屋外の仕様にも適している。
和ろうそくの原材料の木ろうは、ハゼの木の実の油で独特の粘りがあり、食品衛生法に適した安全性もある。
商品としては、化粧品の口紅やハンドクリーム、軟膏、座薬、クレヨン、色鉛筆、お相撲さん のビン付け油等にも使われており、海外でもジャパンワックスとして重用されている。
~どこかで、誰かと必ず繋がっている!~
どんな商品でも、いきなり商品があるわけではないが、消費者はものづくりの過程をついつい忘れがちになる。
ただ、この姉妹にとっては一つの物が出来ていく物作りの過程が幼い頃からの日常生活の中にあった。
「材料のハゼを育てる人、ハゼの実を取る人、ローソクの芯を作る人、ろうそくに仕上げる人、、、一つの物が出来る工程って、ほんとにたくさんの方がかかわっていて、それが輪になっていると思うんです。その輪のどこか一つでも切れたら、物は完成しなくなるんです。そして伝統が途切れてしまいます。」
実は和ろうそく作りに必須の燈芯作りをしている所も、現在は全国でただ一軒しかないという。それも高齢化している。
そこが切れたら、和ろうそくはどうなるのか??
そんなことも考えながら、若い二人は和ろうそくの世界の輪の中に身を置いている。
「小学校の修学旅行で長野県のある集落に行った時の『この地域の独特な瓦の色は、今使われている瓦がなくなった時に終わります。この特殊な瓦を作れる人がもう居なくなり、その技術が継承できなかったからなんです。』と言うガイドさんの言葉がとても心に残りました。」
小学生のそれも浮かれた旅行中に聞いたこの言葉から、ろうそくの技術に思いを馳せた紗矢香さん。
「変わるものと、変えてはいけないものがあると思います。伝統は継承していかないといけないものだと思っています。」という真由華さん。
~これからの和ろうそく~
和ろうそくは、これまで仏具として使われてきた。
明治以降、大量生産できる洋ろうそくの進出に押され、和ろうそくは減少の一途を辿ってきた。
しかし今、ろうそくは空間演出などの分野で静かな人気になっている。
洋ろうそくも多いが、炎の特徴などから和ろうそくの和の灯りを望む声も増えて来ている。
便利すぎる世の中を少し見直してみようという世の中の動きもある。
火をつけて燃えつきるまでの炎を楽しむと言うことも、改めて提案していきたい!!
まずは和ろうそくの世界を知ってもらいたい!!
最近、恭和社長がSNSで積極的に動画配信などもしている。
(インスタグラムの投稿はこちらから➡︎)
「和ろうそくの魅力って何•••って言われても、なかなかうまく答えられませんが、ひょっとしたら、私が光源の中にいるからなのかもしれません。今、和ろうそくの業界は暗闇の中にいるようなものです。そのうちに、私ではない光源が現れて照らしてくれるのを待っているのかもしれません。」と真由華さんが言葉を探しながら答えてくれた。
「大勢の従業員もいる松本商店を継ぐという自信はまだまだありませんが、続けていかないといけないという責任感は持っています。」と紗矢香さん。
ちょっと違う環境に育った姉妹が、はぐらかしてきた家業と向き合い、改めて伝統工芸を継承しようとしている。
(有)松本商店
住所:西宮市今津水波町11-3
営業時間:午前9時半~午後6時
定休日:日曜日/祝日
mail:warosoku@pearl.ocn.ne.jp
電話:0798-36-6021
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