みなさん、学校にあるものと言われて何を思い浮かべますか? 教室?体育館?プール?大社小学校のこども達なら「田んぼ!」と元気に教えてくれるでしょう。
なぜなら、大社小では、地域の方々とこどもたちが力を合わせて、学校の中でお米作りに励んでいるからです。これは地域と学校が一緒にこどもを育む「コミュニティ・スクール」という仕組みから生まれた活動です。この記事では、大社小コミュニティ・スクールの推進員さんに伺ったお話と田んぼプロジェクトの授業をご紹介します。
地域と共にある学校:コミュニティ・スクール
コミュニティ・スクールとは、一言で言えば「地域とともにある学校」です。地域住民が学校運営に関わり、話し合いや行事、授業を学校と地域で一緒に行う仕組みとして、文部科学省が2004年に開始し、2015年の中央教育審議会答申「新しい時代の教育と地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」、2017年の「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の改正をふまえ、現在では全国的に広がっています。(参考:「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」文部科学省)
コミュニティ・スクール3つの目的
文部科学省は、この制度に3つの目的を掲げています:
1. 教育の質を向上させる
地域の伝統や歴史を活かした授業、住民によるキャリア教育など、学校だけでは提供できない学びの機会を作ります。
2. 地域全体を活性化する
学校を地域の中心として位置づけ、住民同士の新しいつながりを生み出します。
3. 住民同士の絆を深める
地域ぐるみでこどもたちの成長を支えることで、地域コミュニティの絆が強くなります。
西宮市のコミュニティ・スクールの歩み
文部科学省はコミュニティ・スクールの導入を推進していますが、導入の進み具合は自治体によって違いがあり、2024年度のデータによると、全国の導入率は約58.7%に留まっています。(出典:「全国コミュニティ・スクール実施状況調査」公益財団法人 先端教育研究所)
西宮市では、令和2年度(2020年度)からコミュニティ・スクールの導入を進め、令和5年4月には特別支援学校や高等学校を含む、すべての市立学校(幼稚園を除く)で導入が完了しました。(出典:西宮市)
「以前から教育連携協議会は、地域と学校が意見交換を行う場として機能していました。しかし、コミュニティ・スクールが導入されたことで、地域住民がさらに積極的に学校運営に関わる仕組みができました」と推進員さんは話してくれました。
推進員は学校と地域をつなぐ架け橋
学校と地域連携の課題
「学校と地域が協働すると言っても、難しいのではないでしょうか?」と質問すると、「現実には連携がスムーズに進まない課題がある」との答えが返ってきました。お互いに協力したい気持ちはあっても、地域の人たちが何ができるのかを伝える場がなかったり、学校側も忙しさから地域に助けを求める余裕がなかったりする現状があるそうです。
推進員の役割
このような課題に対応するため、推進員さんは、学校と地域をつなぐ架け橋として活動を続けてきました。忙しい学校と地域住民の間に立ち、丁寧に時間をかけながら、学校が抱える課題を聞き取る一方で、地域住民が意見や提案を発信できる場を設けるなど、情報の整理や調整を行ってきました。
その結果、地域で活躍する大人たちを学校に招き、こどもたちに仕事の面白さや厳しさを伝える「キャリア教育」や、土作りから米の収穫まで学校で行う「田んぼプロジェクト」、学校の教職員、地域、保護者でこども達をとりまく環境について語る「大社のこどもを語る会」、不登校支援のための「不登校の親の会と学校外での居場所作り」、地域の団体を招いて朗読劇を行う「平和学習」など、数々のプロジェクトで学校と地域住民のつながりと協働を作りました。
また、これまで行っていた、昔遊びや昔のお話などの活動もサポートしています。
田んぼに生まれ変わったビオトープ
ここからは、地域と連携し、こどもたちの成長を促す環境づくりを目指す文部科学省の掲げる目標にぴったりの取り組み、「田んぼプロジェクト」について詳しくご紹介します。
「田んぼプロジェクト」は、学校敷地内にある田んぼを活用し、地域住民とこどもたちが協力して、2年をかけて土作りから米の収穫までを行うという大規模な取り組みです。
校内に田んぼがあるのもユニークですが「荒れたビオトープをどうするかという話からはじまった」というプロジェクトのきっかけもユニークなものでした。
ビオトープが田んぼに生まれ変わる工夫も見事ですが、この取り組みにはもう一つ大切な工夫があります。それは、地域住民と学校のつながりを持続可能なプロジェクトにする為に「授業」として実践されていることです。
「田んぼプロジェクト」がこどもたちに贈る豊かな学び
「田んぼプロジェクト」では、小学4年生と5年生が2年間にわたって米作りの工程を体験します。このプロジェクトの特徴は、学年ごとに役割を分担し、段階的に農業と食について体験を通じて深く学べることです。
4年生は、プロジェクトの初年度として田んぼの基礎を整える「土作り」を行い、田植えに向けた準備を進めます。
5年生になると、春の田植えから秋の収穫まで、本格的な稲作を経験します。収穫したお米を地域の方々と共にいただき実りの喜びを分かち合います。そして、収穫後には日本の伝統文化であるしめ縄作りも体験します。こうして2年間の活動を通じて、こどもたちは農業と食の営みの繋がりを、体験し深く学びます。
伝統文化体験:しめ縄つくりの授業レポート
田んぼプロジェクトの最後の授業として行われる「しめ縄作り」に筆者も取材として参加させていただきました。
この授業では、地域住民10名以上が参加し、約100名のこどもたちにしめ縄作りを指導しました。授業は、2年間の活動を振り返るスライドからスタートしました。
思い出を振り返りながら、学びの復習も兼ねる工夫に感銘を受けました。
スライド学習のあとはいよいよしめ縄作りに挑戦です。
まず全体でしめ縄作りのデモンストレーションを見ます。その後、地域住民のサポートを受けながらこどもたちは稲を編み込み、しめ縄を作ります。
こどもたちも地域の皆さんもとても楽しそうでした。
しめ縄作りの授業を通じて、「田んぼプロジェクト」が、2年という長い時間をかけて、地域とのつながりや人生を豊かにする食事や食物についての深い学びをこどもたちにプレゼントしてきたことを感じました。
まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この記事では、大社小学校の取り組みを通じて、西宮市のミュニティ・スクールについてお伝えしました。
文科省が掲げる「学校と地域が一体となることで、地域全体の活性化を目指す」。この言葉は、こどもを学校や家庭だけでなく「地域で育てる」という考え方にも通じています。
今、学校にいるこどもたちが、地域の中で育ち、やがて大人になったとき、次世代を支える地域住民として育てる役割を担っていく。そんな循環が何度も繰り返され、当たり前になった未来。私たちみやっこは、地域全体が一つの家族のようにつながり、支え合い、育み合う関係になっているのかもしれません。
コミュニティ・スクールでは、地域住民の力を必要としています。あなたの得意なことや少しの時間が、こどもたちの学びや地域全体の成長につながります。特別な経験は必要ありません。あなたも、みやっこの一員として、この素敵な循環の一歩を踏み出してみませんか?
コミュニティ・スクールに興味のある方へ
西宮市コミュニティ・スクールのウェブサイトでは、各学校の活動内容やボランティア募集の情報をご覧いただけます。ぜひ一度アクセスしてみてください。
大社小学校からのお知らせ
大社小学校では、大社地区以外の方にもご参加いただけるイベントを開催しています。参加のご希望や質問など、ぜひお気軽にお問い合わせください。
2024年度 大社小学校 不登校の親の会
内容:不登校のお子さまを持つ保護者の方を対象にした「親の会」です。どの学校の保護者の方でもご参加いただけます。
日程
- 2025年1月31日(木) 10:00〜12:00
- 2025年3月28日(金) 13:00〜15:00
平和学習 朗読劇 火垂るの墓
内容:NPO法人陽なたの会による朗読劇を鑑賞する平和学習です。安井地区の方でもご参加いただけます。
日程:2025年2月8日(土) 開場14:00 開演14:30
お問い合わせ先
担当者:コミュニティ・スクール推進員 朱宮(しゅみや)・中畑(なかはた)
メールアドレス:yoshi_shumi@hotmail.com
執筆:かにかま