宮水が酒造りに利用されるようになった時期は定かではないが、初代辰馬吉右衛門が「神託により西宮の邸内に井戸を掘ったところ、清冽甘美な水(後の『宮水』と考えられる)が湧き出た。この良水を用いて酒造りを始めた。」と言われている。その後櫻正宗の6代目山邑太左衛門によって西宮の水が酒造りに最適であるということを発見(宮水の発見)し、各社に利用されることになった。
宮水は、もともと海だった西宮のこの地域に六甲山系の伏流水が、かつての海岸であったトリ貝層を通過することで酒造りに都合の良い水を湧きだし続けていた。宮水の成分は、鉄分がきわめて少なく、カルシウム、カリウム、リン等の含有量が多いことから、麹や酵母の成長を助けている。
各酒造会社がこの狭い地域に宮水井戸を設けて酒造に活用している。
現在では宮水は西宮郷、今津郷の酒蔵へはポンプで配送され、その他の灘五郷の酒蔵へはタンクローリー車で配送されている。当初は宮水地帯にある酒蔵は、敷地内にある宮水井戸から直接はねつるべを用いて汲み上げていた。
かって宮水の運搬は水車を利用することもあるが、樽に詰めて荷車で運搬もされていた。
また水屋という商売もあり、遠く広島辺りまで宮水を樽に詰め、船で運んでいたこともある。
酒の製造工程では、水が影響を与える段階がいくつもある。精米された米は蒸す前に洗米工程があり、洗米時には米の表面が削られ水がどんどん吸収される。つまり、洗米の時点で使われている水によって米の味わいが変わり、抽出されるもろみの質にも影響する。
日本酒(原酒)の製造過程で使われる水を仕込み水という。仕込み水は日本酒の質を決める重要なもので、酒造りにおける有効成分(カリウム・リン・マグネシウム)を含み、清らかな水を使うことで雑味のない味わいの日本酒ができる。
硬水の中でも宮水は、麹や酵母の成長を促すリンやカリウム、カルシウムが一般的な水よりも豊富で、かつ鉄分がほとんどないため酒造りに最適な水といえる。
酒造りは秋洗いに始まると言われている。秋になるとその年の酒造りの為に、前庭で桶や樽及び酒造りに使用する道具を丁寧に洗うことから始まる。
どこからか秋洗いの歌が聞こえてくるようだ。
昔の写真 西宮市歴史資料チームおよびにしのみやデジタルアーカイブ提供