西宮の地場産業といえば、酒造りがまず頭に浮かぶが、この酒造りに欠かせないとされるのが『宮水』。
国道43号線の南側に「宮水発祥の地」や「宮水庭園」という整備された場所もある。
この宮水は、北から流れ込む札場筋伏流、武庫川水系からの法安寺伏流、六甲山系からの戎伏流の 3つが混じり合いごく限られたエリアに湧き出ており、今でも、灘の酒蔵の多くは、このエリアに汲み上げの専用井戸を持っている。
そんな宮水の源流の一つと言われているようで、宮水を管理されている方が年に何度か水質検査にも来ておられるという井戸が越水町にある。
この井戸を長らく守って来られた地元の方がおられるということでお話を伺ってきた。90歳に見えないその方のお名前は小濱富男(こはまとみお) さん。
きちんと鍵がつけられたその井戸の扉を開けていただくと、長方形の水槽に透明な水が満々と満ちていた。寒い冬に手を入れると暖かく感じるその水は、まさに湧き水。
「阪神大震災の後、なぜか水が白く濁ったんです。ですから飲み水には使えませんでしたが、ご近所の方には洗濯など便利に使っていただきました。」
越水町はかつて「越水城」があった場所で、現在の城山町周辺に本丸があったとされている。
越水城があった頃にはこの辺りを西国街道が通っていたと思われ、きっとこの清水は旅人の喉を潤したのだろう。
3つあったと言われる井戸は、現在は二つとなり、小濱さんが守って来られた方の井戸は澄んだ水をたたえていたが、そこから少し東にあるもう一つの井戸は、残念ながらみどりの藻が水面を覆っていた。
ただ、井戸のそばの飛び石の隙間から水が湧いているのが確認できた。
「昔は、ここで地域の方が洗濯したり、野菜を洗ったりしていたのを覚えてます。とっても賑やかでね、楽しかったんですよ。その後、使われなくなって荒れた井戸を見ていて気にかかり掃除をするようになりました。最近は、自治会の方々も一緒に掃除をしていただくようになりました。」と小濱さん。
近くの小学校の3年生が、地域の歴史を調べるときに説明もされているようで、お手持ちの資料の一部も拝見した。
大きな震災も乗り越えて、昔からコンコンと湧き続けている清水。大きな災害時にはこういう天然の水場はとても貴重だろう。
20年前、神戸に比べると西宮の火災件数は少なかったが、実際に川や池等の自然の水利も利用されたとも聞く。万が一の時に備えて普段からこのような自然の水利もきちんと整備もしておいた方がいいだろうし、市内には他にもこんな場所があるのかもしれないと思った。
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