世界のフルート奏者を支えてきた植澤晴夫氏が西宮に

植澤晴夫

2021年2月、フレンテ西宮の二階の一角にフルート専門店がオープンした。
『ムジーク・アトリエウエサワ』
フルートというとても繊細で高価な楽器の修理技術で、40年以上の月日をスイスやドイツを拠点に、世界の名だたるフルーティストを支えてきた植澤晴夫さんが帰国して作った店。

フルート専門店『ムジーク・アトリエウエサワ』のパンフレットには、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団首席フルート奏者のエマニュエル・パユ氏やドイツフルート協会会長のアンドラーシュ・アドリアン氏達が植澤さんの優れた修理技術についての推薦文を寄せているが、その言葉の裏側には植澤さんを手放す悲しみが読み取れる。
そしてそれとは真反対に、東京音楽大学教授の工藤重典氏の推薦文には「日本のフルート界にとっては朗報です!」と、帰国された植澤さんを歓迎する喜びであふれている。

これまで全く縁のなかった関西に定住することになって不安があるという一方で、阪神間の真ん中で芸術文化センターもある立地に大きな期待も寄せておられる植澤さん。
「日本は、世界に良質なフルートを供給している生産大国なんです。ただ、私から見て少し残念なのは、楽器のメンテナンスに重きを置く人が少ないという事です。でもそれは、ヨーロッパと日本の演奏家の置かれているシステムの違いにも大きく影響されているんですけどね・・・・」
そんなお話を『ムジーク・アトリエウエサワ』で伺った。

アトリエでのお話に入る前に、植澤さんのこれまでの歩みを簡単にまとめた。

元々、ヤマハの工場でフルートの開発や試作をされていたが、修理技術者の道を歩み始め1978年にはスイスに招かれることになる。
そこから42年、スイスやドイツで幅広くヨーロッパの名だたるプロのフルート奏者の楽器を技術者として支え続けてきた。
そんな修理の日々の中でフルートの『パッド』に着目し、ウエサワ・パッディング・システム(UPS)を独自開発した。(特許取得済)

ウエサワ・パッディング・システム(UPS)を使うと、キーカップとパッドの気密性が良くなり、音量や音色が驚くほど変わるのだという。
それまでの修理の場合、奏者の吹き方や癖などによってカップとパッドの間に微妙な隙間などが出来たとき、その隙間に少し詰め物をしながら微調整するという方法だったが、ウエサワ・パッディング・システム(UPS)は、どんなカップの形状や位置であっても、カップの内底の音孔にフィットさせる安定性が格段に違うのが特徴。
だから少々ハードに吹いても狂わない。
今やヨーロッパを中心に、世界各国でウエサワ・パッディング・システム(UPS)のファンは多い。

様々な事情で日本に帰り西宮に定住することになった植澤さんだが、夏の間はドイツで仕事をするというスタイルになるそうだ。修理はすべて予約制。
お店では、持ち込まれたフルートの調子や奏者の困りごとをヒヤリングしながら、修理の予定を組み立てていく。

ちょうどこの日、 フルート奏者で日本フルート協会理事でもある平岡洋子さんが楽器を持って訪れていた。
「先日修理していただいて、本当にびっくりするほど音が変わったんです。それまではそれほど気にしていなかった一つ一つの音の違いがとても良く分かるようになって・・・・。フルートを吹き始めて本当に長いんですが、こんなにフルートを吹いていたい!!と思うのは学生時代以来かも??」
と言いながら、一つ一つの音の違いが分かるようになったからこそ気づく、さらなる音の微調整をお願いしたいという来店だった。

受付に置かれた一本のフルートを挟んで、フルートを愛する技術者と奏者が、微妙な音の違いや技術的な話を細かくやり取りしている。
その内容の半分ぐらいはわからないが、お二人のフルート愛はビンビン伝わってくるので、横で聞いていても楽しい。

カップの開き具合なども微調整してもらったその夜、平岡さんから「楽器の調子は抜群に良くなりました! 植澤さんの提案はワクワクするものです(^_-)-☆ すごい方がこんなに身近に来ていただいてうれしい限りです。」と高揚したメッセージが届いた。

フレンテ西宮にある『ムジーク・アトリエウエサワ』の奥には楽器の洗浄などをする小部屋もある。
スイスの時計職人の洗浄方法に、植澤さん独自の工夫を加えた洗浄法で、まずは楽器を隅々まで洗い上げる。
また横の小部屋には、時には工具そのものも作ってしまうこともあるという機械が設置されていて、その下には作業中の金属くずがいっぱいあった。

そして作業テーブルの上には、無数の備品や工具が並ぶ。
「まだまだ慣れていない場所なので、作業の途中で物を探すことも多いです。」と苦笑しながらも、やはり作業場に座ることがうれしそう。

「これは1/100ミリのペーパーなんです。」
そのレベルで調整していく作業を、植澤さん自らが「神経衰弱になるような作業です。」という。
植澤さんのこの職人技と気遣い、そしてフルートへの深い愛情からくる修理だからこそ、世界の超一流の奏者が「楽器が出しえる音の深みを最大限に引き出しながら、素早いレスポンスをもたらします。」と賛辞を贈る。

「工場で作られた楽器は、それを購入した人のためにフィットした状態で、最良の音の響きが生み出されるようになるのが理想的です。そのために技術者は必要だし、演奏家の理解が必要です。演奏によって多くの楽器は消耗し、疲弊します。演奏者がそんな楽器の事を、もう少しだけ振り返れる環境が出来ていって欲しいと思っています。」と植澤さんは話す。

西宮には、世界の佐渡裕氏が芸術監督を務める「兵庫県立芸術文化センター」があり、国内外から超一流アーティストが集まる。
そして、フルートという分野ではあるが、超一流の技術者が西宮に来た!
なんとワクワクする展開だろう。

ムジーク・アトリエウエサワ
住所:西宮市池田町11-1 フレンテ西宮2F
電話・FAX:0798-31-5808
<注>7月〜8月はドイツでの仕事となり、西宮店は休業
HPはこちら>>

投稿日時 : 2021-03-19 16:26:00

更新日時 : 2022-09-05 18:42:53

この記事の著者

編集部|J

『西宮流(にしのみやスタイル)』の立ち上げ時からのスタッフ。
日々、様々な記事を書きながら西宮のヒト・モノ・コトを繋ぎます。

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