西宮に有名なジオラマ作家さんがおられるらしい・・・そんな話を聞いてはいたが、今流行りのSNSで繋がるというのも 本当に面白い世の中になったとつくづく思う。「繋がったということは、取材に行きなさい!」という天啓だと思い、コンタクトをとってお邪魔してきた。
『ジオラマ=鉄道模型の周りの風景』という私の認識が、大きな間違いだったことを思い知らされた取材となった。
通していただいた部屋の大きなテーブルの上にはひとりの少年の成長を綴った連作ジオラマ「ミハエルの夢 第1景〜第6景 」の作品たちが並んでいた。
挨拶もそこそこに、すでに私の目はその作品に釘付け!!
やはり最初はプラモデル少年
「戦車を作るのが好きでしたね。でも、まさか自分がジオラマを作るなんて、昔は思ってもいませんでした。」とにかく色々なプラモデルを作って来たと小原さん。
ジオラマの中を走る鉄道模型も、時間の経つのも忘れて見入っていた少年だったという。
そんなジオラマが作れるなんて思ってもいなかった。でも、模型を作っているうちに戦車には人を乗せたくなり、その戦車は土の上に置いてみたいという欲が出て来たという。
自営業だったこともあり、その比重は別として、長くジオラマ作りと二足の草鞋を履いていた小原さんが「ジオラマ作りをライフワークにしよう!」と思ったのは、今から5年ほど前。50歳の頃だった。
女性の方が発想は大胆
昔は、町のあちこちにプラモデル屋さんがあった。文房具を置いているお店の片隅には、必ずプラモデルの箱が積み上げてあった。ところが、そんなプラモデル世代がどんどん高齢化してきて、今や模型好きの人口は本当に限られてきているらしい。
「箱の外側の絵に惹かれてプラモデルを買ったのはいいが、箱を開けて完成品が入ってないとびっくりする人がいるという世の中になってきているんです。」
模型人口は限られているという日本では、メーカーも新しい製品は売れる数しか作らないので、気になったらすぐに買っておかないともう手に入らなくなるのだそうだ。
そんな模型やジオラマの世界は、やはり大多数が男性。ただ少数だが女性の作家もおられ、女性の方が発想は飛び抜けていると思うと小原さんは言う。
「技術は男性ですが、発想は女性ですね!!」
一つのフィギュアから情景が生まれ、二つ目のフィギュアで物語が続いた
ご自身を情景作家と名乗る小原さん。「僕はまだ5年の駆け出し作家ですが、この世界の巨匠のお一人の山田卓司さんの招きで二年前、浜松で作品展をさせていただきました。」
その時の展示会用の冊子に山田卓司さんがこう綴られている。
「小原さんの作品の多くは深く渋い色調でまとめられております。それはまるでヨーロッパ映画の様で、それぞれの作品からは様々な物語を想起させるところから、誠に勝手ながら今回は『鈍色(にびいろ)の物語』展と名付けさせていただきました。」
二体の小さなフィギュアから紡がれた「ミハエルの夢 第1景〜第6景」は、見れば見るほど細かく忠実にその世界・その生活が描かれている。一つ一つ指差して説明を聞けば聞くほど、その小さなジオラマの世界に引き込まれる。
「小原さんて、本当にロマンティストですね〜〜?」
「自分の生きてきた生活や趣味などが製作のベースになりますが、そこに物語があるからこそ人はそのジオラマに惹かれるんだと思います。」
小原さんが最初に出会った『驚いた顔をして上の方を見上げている少年のフィギュア』の前には、トラックに積まれた赤いロケット飛行機を置き、背景は第二次世界大戦中のドイツでエースパイロットを夢見る少年と決めた。「ミハエルの夢 第1景 (彗星)」が誕生した。
『右手を上げて、上の方を見上げている少女のフィギュア』に出会った小原さんは「ミハエルの夢 第5景(花嫁)」を作りあげ「ミハエルを慕って実家から家財道具を持ってきた女の子」というストーリーを考えた。すでに6連作になっているが、小原さんの頭の中では人生を終えるまでのミハエルの物語がすでにイメージされているという。
女の子がロバに引かせて持ってきた大切な家財道具の一番上に、ちょこんとクマのぬいぐるみが積まれているのを見つけた時には、実に心憎いと思った。
フィギュア作りにチャレンジ!
ジオラマ作りでは重要な位置を占めるのがフィギュア。
「これまでは既製のフィギュアを少し改造したりして使ってきましたが、それではやはり限界があります。これまで自分にはできないと思い込んでいたんですが、思い切ってチャレンジしてみました。もちろん、一体作るのにかなりの時間はかかるのですが、思い通りのモチーフが作れるので作品に広がりができます。するなら、いっそ一番苦手なところから始めようと考えて、女性に挑戦しています。最近、やっとなんとか見ていただけるものができてきました。」
針金で骨格を作り、麻糸を巻いて肉付けし、そこにさらに粘土で裸形を作り、服を着せていく。針金の骨格のところですでに男女の違いが作られるという。
「いきなり粘土で作り上げる方もおられますが、私の場合は針金からの工程を踏まないと作れません(笑)」
工房を見せていただいた時、小原さんが無造作に掴んで置いた「赤ちゃんを片手で抱っこしたフィギュア」が、すっと立ったのを見てとてもびっくりした。
「人形というのは、きちんと骨格が作られていたらバランスが取れて自立するものなんです。」
フィギュアが作れるようになって、これまで作ってきたジオラマとは少し違うジャンルが見えてきたらしい。
昨年の「兵庫県展」での芸術文化協会賞受賞を契機に今後はジオラマをマニアの楽しみから一般の方々が観賞できるアートに昇華させていきたいと意欲満々のお話を聞くことができた。それにはまず「地元西宮で展覧会を近いうちに実現したいと思っています。」とも。
これからの小原さんが作られる『立体絵本』には、どんな物語が綴られていくのだろう・・・。
取材後数日して「今年の兵庫県展で『神戸新聞社賞』をいただくことができました。昨年よりもひとつ上がって彫刻・立体部門の三席です。」と嬉しいニュースが飛び込んできた。マニア以外の人も楽しめる作品をつくり、少しでもジオラマ作品の認知アップにつなげたいという小原さんの思いが着々と進んでいる。
県展の作品は2015年8月1日~22日の間、「原田の森ギャラリー」で展示される。