神戸女学院に新棟「小林季子記念館」が完成。再整備の第一歩が形に

2025年10月に創立150周年を迎えた神戸女学院大学。その岡田山キャンパスに、2026年3月24日、新棟「小林季子(すえこ)記念館」が完成しました。

神戸女学院では2021年、伝統あるキャンパスを未来につなぎながら、これからの学びの場として整えていくための「キャンパス再整備マスタープラン」を策定しました。あわせて、市民にも開かれたキャンパスを目指すことも掲げられています。

その最初のプロジェクトとして進められてきたのが、理学館西側の空間を見直す「理学館西側地域再整備計画」です。今回完成した小林季子記念館は、その計画のスタートとなる建物です。

理学館の西側に新棟。西門まわりの空間を整備

神戸女学院のキャンパスは山の地形を活かしてつくられており、現在は「今津西線」側にある西門が車の出入り口として使われています。今回、記念館が建てられたのは、その西門からキャンパスに入って少し上がった先、理学館の西側です。

もともとこの場所には理学部の別館がありました。しかし、隣の建物との間がおよそ3mと狭く、車が1台通れるかどうかという幅だったといいます。キャンパスの入り口となる空間としてはやや窮屈で、入口らしい広がりは感じにくい場所だったそうです。

そこで今回の整備では、この別館を取り壊し、地面を掘り下げるようにして新たに建物を建設。地上1階・地下2階の構造とすることで、限られた敷地の中に必要な機能を収めました。建物のボリュームを地下側に収めたことで、地上部分には余白が生まれ、西門から理学館へと続く空間も以前より開けた印象になっています。

建物内部からの眺め
記念館と理学館本館の間には広々とした空間が広がる

 学院事務局長の北條敦子さんは、こうした整備について、「条件としては難しい場所でしたが、それでもここに新しい空間をつくる意味は大きかったです」と話します。建物の新設というだけでなく、西側の空間のあり方そのものを見直した整備だったといえるでしょう。

緑と光を取り込むラウンジ「めぐみコモンズ」

建物の地下2階には心理実験室や心理相談室があり、心理学部や大学院の教育・研究の拠点として使われています。最上階にあたる1階には「めぐみコモンズ」と名付けたラウンジがあり、学生が授業の合間に立ち寄ったり、少し話をしたりと、キャンパスの中で人が自然に交わる場として位置づけられています。

建物の内装
昔の学生寮で使用していた椅子とテーブル

ラウンジ内にはテーブルや椅子がいくつか置かれており、その一部は阪神・淡路大震災で被災した学生寮の食堂で使われていた家具をリメイクしたものだとか。補修はされているものの、あえて傷を残した部分もあり、新しい空間の中に、女学院の歴史がさりげなく残されています。

ラウンジはガラス張りで、外の緑がそのまま視界に入ってくるつくりです。窓の外には木々が広がり、その向こうに街並みが見える位置関係になっています。「建物の高さを抑えていることもあり、高いところから遠くを見渡すというより、木々を通して街を感じるような見え方が特徴です」と北條さん。

ラウンジからの眺望
木々の合間から西宮の住宅街を眺める

また、西日を完全に遮らずに光を取り込んで楽しむ設計になっているのも、このラウンジの特徴のひとつ。窓まわりには金属製のルーバー(日差しをやわらかく遮るための羽板状の部材)が設けられ、室内に入る光を調節しています。ロールカーテンも完全な遮光ではなく、光を残す仕様になっているそうです。

このような光との向き合い方には、神戸女学院のキャンパス設計を手がけた、建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの精神が重ねられているのだといいます。

ヴォーリズの精神を受け継ぐ、“いまの女学院”のかたち

ヴォーリズは、明治時代に来日し、関西を中心に多くの学校や教会などを手がけたアメリカ出身の建築家です。神戸女学院では、妻が卒業生だった縁もあり、1933年の岡田山キャンパス移転にあわせて設計を担当しました。

岡田山の起伏ある地形を生かしながら、中庭を囲むように建物を配置し、回廊でつなぐ構成は、いまもキャンパスの大きな特徴になっています。こうした建物は、2014年に12棟が国の重要文化財に指定されました。

一方で、神戸女学院では2025年10月の創立150周年を前に、2021年に「キャンパス再整備マスタープラン」を策定。重要文化財として守るべき部分を大切にしながら、これからの学びの場としてキャンパスをどう更新していくかが検討されてきました。

今回の設計で意識されたのは、既存の建物との関係でした。重要文化財に指定されている建物群があるなかで、外観を単純に似せてしまうと、新旧の区別がつきにくくなります。だからこそ、調和を意識しながらも、あくまで現代の建築として成立させることが求められたそうです。

北條さんは、「伝統を継承しつつも、“いまの神戸女学院”を表す建物にしたいと考えていました」と話します。その言葉どおり、この建物はヴォーリズ建築の見た目をそのままなぞったものではありません。重要文化財に指定されている建物群がある中で、あえて同じように見せるのではなく、新しい建物であることがわかるように設計されています。

建物内部の壁
きれいに並んだレンガ調のタイル

たとえば、壁の見せ方にも工夫があります。レンガ調の壁材は、既存の建物のように少しずつずらして積んで見せるのではなく、目地がまっすぐそろって見える張り方を採用しているそう。

一方で、完全に切り離された存在でもありません。建物の高さや配置には周囲との調和が意識されており、舗装に校舎の古瓦を使用するなど、これまでの女学院の歴史を今の建築に引き継ぐ工夫も見られます。

なお、記念館の名前にもなっている小林季子さんは神戸女学院の卒業生です。亡くなられた後、渋谷区の自宅が学院に寄贈されていましたが、建物の老朽化により維持が難しくなり、その後の売却資金の一部が今回の建設費用に充てられました。建物の一部には、その自宅に使われていた窓枠も取り入れられています。小林さんへの敬意を、建物の中に形として残したものといえそうです。

小林邸から移設された窓枠
地下階には小林季子さんの自宅から移設した窓枠が

この建物は普段は主に学内で使われる施設ですが、イベント時などには見学できる機会もあるとのことです。また、地下にある心理相談室は一般利用も可能で、地域との接点のひとつになっています。今回の新棟建設をきっかけに、キャンパスのあり方も少しずつ変わっていきそうです。

●神戸女学院大学
https://www.kobe-c.ac.jp

●神戸女学院大学心理相談室
神戸女学院大学大学院人間科学研究科では研修・研究機関として心理相談室を設置。子どもから大人まで、心身の悩みや心理的な問題について、個人面接、プレイセラピー、箱庭療法など、さまざまな心理的援助を行っています。
https://www.kobe-c.ac.jp/sinso/

●ヴォーリズ建築一般公開
神戸女学院ではツアー・マイスター(一般公開の案内を担当する学生ガイド)による「ヴォーリズ建築一般公開」も行っています。
https://www.kobe-c.ac.jp/event/vories

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