「NHK杯全国高校放送コンテスト」というのがある。
全国放送教育研究会連盟と日本放送協会が主催する高等学校の生徒を対象とした放送のコンテストで「アナウンス」「朗読」「ラジオドキュメント」「テレビドキュメント」「創作ラジオドラマ」「創作テレビドラマ」「研究発表部門」の7部門で審査が行われる。
高校放送部の大きな大会で、全国で2000校ほどが参加する。今年は71回大会。
兵庫県立鳴尾高校放送部の「テレビドキュメント部門」への挑戦を取材した。
テレビドキュメント部門「アレが来た!」
鳴尾高校放送部が「NHK杯全国高校放送コンテスト」のテレビドキュメント部門に挑戦するのは久しぶりのことだったようだ。
テーマに決めたのは、1951年の春の選抜大会で準優勝した鳴尾高校野球部の話。
タイトルは「アレが来た!」
部員達はネット情報で概要は知ったが、最初は学校関係者からの情報も殆どなかったようで、記事を挙げていた「西宮流」にコンタクトが来たのが今回の取材のきっかけとなった。
4月に新年度が始まって6月初めにはエントリーの8分の映像を提出しないといけないというスケジュールは、みな平等だとはいえなかなかハードだ。
連絡をいただき、部員の皆さんとお会いしたのは5月の連休中だった。
いきなりビデオが回っている状況に驚きながら質問にお答えしたが、私がお話しできるのは西宮流に書いた記事の範囲でしかない。
そしてその記事に出て来た写真の提供者・濱崎氏をご紹介することだけ。
一人の生徒がネットで見つけた情報からのテーマで出発した映像制作は、久しぶりという事もあって全て手探りの状況だった。
取材の経験もなかった部員たちだったが、当時の鳴尾高校野球部が宿泊した夕立荘へ行ったり、並行して学校関係者や保護者や先輩達にも取材して情報を探した。
こうした放送部員の動きが、少しずついろいろなところにも影響を与えていったようだ。
これまで誰も注目していなかった職員玄関にある古い旗が3本入った飾り棚に目が行った。これはひょっとしたら…。
ところが、なんと鍵が行方不明。
こんなことも含めて、ドキュメント用の素材映像は着々と増えて行った。
しかしテレビドキュメント部門へのエントリー映像は、8分という規定がある。
たくさんの取材や映像のかけらを8分にまとめる作業は、締め切り時間との戦いだったと後で聞いた。
全部員での久しぶりの「テレビドキュメント部門」への挑戦は、悔しい結果になったようだが、出来上がった映像を見せていただくと、その中で「だんだん本気になって行った!!」という部員のコメントに出合った。
部員たちの素直な心の動きが見えてほほえましくなった。
「実は、完成させるのが精一杯で、後から音声ミスが見つかったのですが、決勝に残れなかったのを悔しがっている姿に、悔しいと思える活動ができたのだなぁ、と感慨深ったです。」と顧問の先生。
取材を通して多くの人の言葉を直接聞いた生徒たち。
結果には満足していなかっただろうが、きっと来年への力となっていくことだろう!!
1951年春の選抜に出場し、準優勝した兵庫県立鳴尾高校。
そして、そこへ阪神パークの象に跨って応援団長が現れたと言うちょっとした武勇伝までついている出来事が、放送部によって一つの動画としてまとめられた。
鳴尾高校の関係者の中でも忘れられていた歴史に、70数年ぶりに光が当てられた。
今年は、甲子園球場が100周年の記念の年でもある。
鳴尾高校へ行ったとき、放送部の生徒さんたちに案内していただきながら、なぜか炬燵が置いてあるちょっと不思議な部室にもお邪魔した。
学校の古い歴史に誇りを持っていることが感じられるような皆さんとのお話は、なかなか楽しい時間だった。
<県立鳴尾高校は、昭和18年(1943年)に鳴尾村の村立高校として創立した学校>
もう少し手直しをした動画は、全校生や卒業生が視聴できるように限定公開を考えているという。
先生や生徒、保護者へのお披露目
6月初めの締め切り日に滑り込みのように完成させNHK杯に提出した動画を、6月の文化祭の開会式で全校生徒にみてもらう事になった。
西宮流が橋渡しをした、当時の野球部キャプテン・濱崎健さんのご子息から、メダルなども学校に送付されたようで、誰も注目していなかった古い旗の飾り棚の鍵も見つかり、動画だけでなくさまざまの資料も披露された。
全校生徒はもちろん、学校関係者や保護者にも、改めて知る鳴尾高校の歴史の一コマが深く記憶に残る事になった。
また、文化祭期間中は放送部の展示としても多くの来場者を迎えた。
たくさんの人に、驚きと共にとても強い興味を持って見てもらえる事になったようだ。
NHK杯の兵庫県大会では、残念ながら決勝に残ることが出来ず悔しい思いをした部員たちだったが、こうした生の反応に出会えて、きっと多くの事も学んだ事だろう。
更なる挑戦に期待したいと思う。
おまけのアナウンス♪♪
コミック「坂本ですが?」のモデルになっているのが県立鳴尾高校。
作品の中では「県立学文高校」として出てくるが、校舎の描写や主人公の坂本君が活躍する景色は鳴尾エリアの風景そのもの…というコミック。
その作者・佐野菜見さんが昨年(2023年)の8月に36歳という若さで急逝された。
鳴尾高校の卒業生でもあった。
佐野菜見さんの一周忌と『佐野菜見作品集』発売を機に、その才能や情熱を伝える原画展「佐野菜見展」が、10月30日(水)~11月10日(日)に西宮市の市立市民ギャラリー(川添町15-26)で開かれることが発表された。
少し先になるが、楽しみに待ちたいと思う!!