「まち全体を学校のキャンパスのように使って、みんなで学ぼう! 教え合おう! 」
西宮市には、そんなワクワクするプロジェクトがあります。
「Machigaku〜まちのがっこう〜」、通称「まちがく」です。
今回は、「まちがく」で講座を行った筆者@NPO法人ある が主催側の視点から紹介します。
「まちがく」とは?
西宮市のあちこちを「学び場」にして、さまざまなジャンルの学びができる。年齢に関係なく交流し、仲間づくりができる。学び合うことで、「まち」を変えていく。「まちがく」はそんな取り組みです。
「まちがく」の 公式ウェブサイト を見ると、様々なカテゴリの講座がほぼ連日開かれています。
写真から楽しげな雰囲気が伝わってきますが、実際はどんな様子なのでしょうか。
参加者目線で「まちがく」を体験した記事は、コチラから。「西宮のまち全体が学校に!?ワクワクする学びの場「まちがく」が今年もスタートしました!」
親しみやすい会場
私たちNPO法人あるは、7月3日に「自分を研究してみる当事者研究」という講座を行いました。
場所は浜甲子園にあるコミュニティスペース「HAMACO:LIVING」。まちがくは2024年7月現在、14か所の「キャンパス」をもっています。キャンパスは西宮市内の店舗、カフェ、交流拠点など、どこも出かけやすい身近な場所です。その中の一つHAMACO:LIVINGは、地域のつどい場としても親しまれています。
温かみのある内装の室内には、絵本やおもちゃが並んでおり、おしゃれで明るい空間です。
手作りアクセサリーなどの展示販売もされています。
この会場であれば、主催側も受講者さんもリラックスしやすいな、と感じました。
同じ目線で学び合う
集まった受講者さん達は、大学生からシニアの方まで、世代も性別もそれぞれ。
初めてまちがくに来た方、他の講座ですでに顔見知りになっている方々、とさまざまでしたが、皆さん気さくに挨拶を交わされていました。空間のやわらかい雰囲気が、「学び」にありがちな硬さを和らげてくれています。
主催側と受講者を隔てるものが物理的にも雰囲気的にも無かった、という点もとてもよかったです。教える側と教えられる側が、同じ目線で参加できる構造になっています。「学び合う」という視点において、両者は同じ立場であり仲間なのだと感じられ、距離を近づけてくれます。はじめは緊張していた筆者ですが、フレンドリーな空気の中で、楽しく進行することができました。
「当事者研究」とは?
「当事者研究」とは、「自分が主体となって、他者と一緒に、自分の困り事を研究する」という取り組みです。
NPO法人あるでは、とくに「他者と一緒に」というところを大事にしながら取り組んでいます。
今回のイベントでは、「当事者研究って何なのかわからないけど、面白そう」と興味をもって申し込んでくださった方が多かったこともあり、初めての「当事者研究」体験として「共有と発見」を目標としたグループワークを行いました。
グループワークの流れ
今回のグループワークは、以下の流れで進めました。
1. 受講者の皆さんから、今抱えている困りごとを発表してもらう。
2.その中から、今回研究するテーマを2つ選ぶ。
3.困りごとの当事者さんに、詳しい内容をインタビューをする。
4.みんなで、困りごとに対してアイデアを出したり、感じたことや気づきを共有する。
5.当事者さんが感想を言う。
参加のあり方は大きく分けると「悩みを話す人」と「悩みを聞く人」になります。
では、一般的な「悩みの相談」と「当事者研究」はどう違うのか?
当事者研究の特徴
当事者研究の特徴の一つは「問題の解決を求めないこと」です。
困りごとは、どこまでも個人的なことであり、どのように感じてどのように困っているのか、一人ひとり違うものです。
困りごとを安易にカテゴライズしたり、一般論に収斂させることなく、当事者さんの言葉に耳を傾ける。
実はこのプロセスだけでも、日常生活の中ではなかなか得られない体験だったりします。
もう一つの大きな特徴は、「困りごとの専門家ではない人間同士として対等に話し合う」ということです。
たとえば、体の不調には医師、心の悩みにはカウンセラー、など、各分野の専門家がいます。
必要に応じてそうした専門家のサポートを受けることは、とても大事なことです。
しかし、ときとしてそれが、自分の困りごとを「他者にゆだねる」という構造を生んでしまうことがあります。
「患者」「クライアント」という立場になることで、自分の困りごとに、社会的なラベルが貼られる。専門家からは、ラベルに合わせた指示が下され、当事者はその指示に従って生活する。
もちろん、それによって困りごとが解消されることもあります。しかし、ときにより「専門家の指示に一方的に従う」ことが、困りごとの個別具体性が考慮されないこと、また当事者から生活の主体性を奪うことにつながり、結果として困りごとが解消されない、または別の困りごとを生んでしまう。そんな場合もあります。
そのような観点から、「困りごとの主体を当事者自身に取り戻すこと」も当事者研究の意義である、といえます。
自分の困りごとを人任せにせず、個別具体的に考えていく。他者の困りごとを、職業的、一般論的な観点で解決しようとするのではなく、当事者目線で寄り添っていく。
そうした場である当事者研究においては、「共感」や「理解」も大きな意味を持っています。
今回のイベントでは、2つのグループに分かれ、合計で4つの困りごとについて研究しました。
その内容はさまざまでしたが、どの問題に対しても、参加者みなさん、自分のことのように首をひねりながら考えておられました。参加者の一人として、その時間そのものがとても貴重なものに感じられました。
まちがくの校長である田村さんも、当事者研究のグループワークに参加されました。とても真剣に取り組んでおられました。その姿勢から、田村さんのまちがくに対する熱意が改めて感じられました。
「安心・安全」の循環が生まれている
イベント終了後に参加者さんからいただいたご意見に、次のようなものがありました。
「深刻な悩みごとなのに、さわやかに話ができた」
「安心安全な場で、人の意見を素直に聞くことができた」
これは今回の講座に対していただいた感想ですが、筆者はまちがくという取り組みに対しても同じ感想を持ちました。「オープンでカジュアル、笑顔のある学びの場」という印象です。
校長の田村さんを中心として、まちがくという取り組みそのものが「信頼できるコミュニティ」として成り立っている。その基盤の上で、主催側は安全に講座を開くことができる。そして参加者も、安心して参加できる。
まちがくは、そのような良い循環が生まれている場だと思います。
「何か新しいことを学びたいけれど、知らない団体のイベントにいきなり行くのは不安だなぁ。イベントの情報を調べるだけでも一苦労だし……」
「団体の取り組みとしてイベントを開催したいけれど、ちょうどいい会場を見つけたり、告知したりが大変なんだよね……」
そんな方のために、まちがくは開かれています。
筆者も参加者の一人として、まちがくのさらなる発展を楽しみにしています!
田村校長による「【報告】自分を研究してみる、当事者研究講座。開催」はコチラです。
NPO法人ある「活動報告: まちがく×NPO法人ある当事者研究講座」はコチラです。
執筆:稲穂