谷川流さんから寄せられたメッセージ(全文)
2022/07/29
2012年10月27日(土)~11月11日(日)
西宮北口にある「アクタ西宮」で開催されたイベント「SOS団in西宮に集合よ!」に、涼宮ハルヒシリーズの作者、谷川流さんからメッセージをいただきました。
ご本人の了解を得て、ここに公開させていただきます。
谷川さん、心にしみる素敵なメッセージをありがとうございました。
そして、10周年の年に、ファンにとって大切な12月の記念日を前に公開できましたこと、感謝いたします。
僕が西宮に初めてやって来たのは三歳の頃でした。
ずいぶんサバンナ気候地帯っぽいところだな、との印象は当時の僕のものではなく、当時の記憶を掘り起こしてみて思う現在の僕のイメージです。もちろん西宮と言っても広いので、ちょうど幼少期の僕が暮らしていた場所がたまたまそうだっただけの話ですが、何というか、田舎と言うほど田舎でもないがどう考えても都会ではなく、かといって住宅地と呼ぶほど家屋が密集しているわけでもなく、民家と団地が点在しているその間にある緑は林であって森でなく、草地はあっても草原はなく、子供の遊び場に困ることもないが他に行くところもなく、何とも形容しがたいというか中途半端というか、ちょっと説明のしにくい光景として記憶されております。その理由の一端に自分の子供時代における行動範囲の狭さと物理的な視点の低さがあるのは間違いのないところでしょう。
と同時に、おそらく、その頃の西宮は高速で変化する途中にある町であり、蛹が羽化するタイミングに僕はたまたま居合わせたようなものだったのではないかと思います。その後、周辺地域にはニョッキニョッキとばかりに戸建て住宅やマンションが建ち始め、あっという間に住宅地へと変貌を遂げると、まるで最初からそうだったように風景に溶け込んでしまいました。
僕が『涼宮ハルヒの憂鬱』という小説を書く際に念頭に置いていたのは、半端だった草地が完全なる宅地になってずいぶん経った頃、だいたい1990年前後の風景でした。実際に書いていたのが2002年の春ですから、当時の僕は「02年からおよそ十数年前の町並み」を思い浮かべていたことになります。ただし、あくまで舞台のモデルであってそのものではないので、ある場所から別の場所までの距離や間隔や立地といった位置情報を相当無視しており、もし何から何まで地図通りにしたらキャラクターたちはちょくちょく瞬間移動をしているとしか思えないことになってしまいます。なぜ02年当時の風景より過去の情景をモチーフに選んだのかはよく覚えていませんが、たぶん現場を見に行ったり調べたりして再現するのが面倒だったのでしょう。頭の中にある景色を想像力の羽ばたきでもって自由気ままに描写できるのが小説のいいところです。
幸運なことに、拙作はアニメーション化していただくことになりました。その際、アニメスタッフの方々とロケハンを共にして、卒業式以来となる高校へ向かう坂道を歩きながら「昔はここにコンビニがあったんですけどね」などと、作品内ではあることになっているけど現実にはもうない、みたいな場所を説明していて初めて変化していたことに気づいたりするのはなかなか新鮮で、そして、少しばかりの寂寥をともなう感覚でした。ただ、高校の通学路近辺はほとんど変わってなかったので、やんわりとした懐かしさのほうが優っていたような気がしますが。
大いに変化し、そして現在も大忙しで変わり続けているところと言えば、西宮北口駅周辺が俄然一等賞だと思います。特に駅の東と南側は昔の面影を見つけることが非常に困難です。その一因が1995年の震災にあるのは言うまでもないでしょう。本当に、よくぞここまで。
「十数年前の記憶」を頼りに書いていた頃から年月を経て至った、今。この今の景色もいずれ同様に過去の記憶として振り返られるものになることでしょう。しかし、例え完全に消え失せたのだとしても、どこかで誰かが覚えている限り、それは無くなったことにはならないのだと僕は思います。
この町に訪れた方々の記憶の片隅に、この町がいつまでも残ることになってくれれば幸いです。
全然関係ありませんが「西宮北口駅南東改札口」って麻雀の席順の間違った覚え方みたいですね。
谷川流
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Comment
ありがとうございます。読ませていただきました。優しい文章ですね。
早速のコメントありがとうございます。
公開は消失記念日か?という声もあったのですが、
善は急げって言うし、待ちきれなくて公開しました(^o^)丿
「13日の金曜日を幸せの日に変えてあげるわ!」ってハルヒ団長ならきっと言ってくれるはず。
ネット上に出回ってた歪んだ画像を目にしてはいましたが,ちゃんと西宮流さんによって公開,という運びとなってくれて嬉しいです.
ちなみに今夏に撮った西宮の風景写真は,デスクトップやスクリーンセイバーとなって,日々の苛立ちを癒してくれています.「おすい」のカエル君の剽軽顔は,他の人にも好評でした.